Rolando 電子和太鼓TAIKO−1を販売するにあたり、思うこと

『太鼓の里 浅野』では慶長14年の創業以来、ただひと筋に和太鼓製作の道を歩んでまいりました。その411年の間、浅野の先達は日本古来の技術に基づいた伝統太鼓の製作を主流としながらも、つねに新しい響きと音色を求めてさまざまな試みに挑戦してまいりました。たとえば、湿度の多い北陸の風土から生まれた発酵技術を応用した原皮の糠なめし。あるいは霊峰白山の伏流水を潤沢に用いたなめし革の寒ざらし。こうした一つひとつの重ねた技が浅野の太鼓の礎となり、近年では1970年代に日本の創作太鼓の幕を開けた『佐渡之國鬼太鼓座』以来の舞台演奏用太鼓の製作、『鼓童』元メンバーのレナード・衛藤氏考案のかつぎ桶太鼓や、世界的太鼓演奏家である林英哲氏設計の桶胴太鼓を製作。さらに2000年からは優れたデザインに対する評価制度『グッドデザイン賞』にチャレンジし、ケヤキの刳りぬき胴に2種類の革を張った『欅締 楽鼓』、台座に一枚革の団扇太鼓を載せた『月鼓』、桐製の胴に共鳴リングを装着した『かつぎ桶太鼓21世紀モデル』、又 正倉院にある太鼓の復元から発想したのが『腰鼓』、そのほか、特許や意匠登録、実用新案などの取得も数十にのぼり、絶えず太鼓界に新風を送り続けてまいりました。

 さて、こうしてつねに未来を見据え、新しい可能性に挑んできた浅野が、今、「新時代の舞台づくりに向けて進化した太鼓」ととらえているのが、Rolando社の電子和太鼓『TAIKO−1』です。桶胴太鼓の形状の内部に、長胴太鼓や桶胴太鼓、締太鼓、大太鼓など各種太鼓の音色のほか、和太鼓以外の楽器や効果音も収録し、それらを組み合わせたアンサンブルまで奏でることができる複合楽器は、いわば太鼓の革命児ともいえるでしょう。かつて、ヨーロッパのグレゴリオ聖歌を発祥としたメロディだけのクラシック音楽が、楽器の発展にともないオーケストラを編成するに至ったバロック時代をへて、やがて楽器の性能がさらに向上したことにより歴史に残る交響曲(ワグナ作指環,チャイコフスキー作悲愴)が次々に発表されてクラシック音楽が黄金期を迎えたように、音楽も楽器も時代とともに歩き、変革し、成長していくものではないでしょうか。その転換点となり、太鼓音楽に新たな境地を見出す予感を、私は電子和太鼓『TAIKO−1』に感じています。

 伝統を踏まえた上でのさらなる革新。代代受け継がれてきた浅野の進取の気風と冒険心が、この電子和太鼓『TAIKO−1』を広く世に提供することを、私の次の一歩として示してくれているような気がします。

一般財団法人浅野太鼓文化研究所  浅野 昭利